血液検査を理解しよう

関節リウマチの治療では血液検査は欠かせません。
当クリニックはクリニックレベルでは通常ない高価な高速血液検査機器があり多くの検査の結果が当日出ます。検査結果を見て、病気の診断、治療の効果、副作用の有無などを考えることができます。
検査結果はすぐ患者さんにお渡ししていますが、アルファベットばかりでちょっとわかりにくいでしょうか。この項では検査の意味と結果を解説していきます。

WBC(白血球数)
血液中の白血球数は炎症や感染症、ステロイド内服で上昇します。高いときは疾患のコントロールがうまくいってないことがよくあります。異常に低下するときにはメトトレキサート、アザルフィジン、アクテムラなどによる薬剤性白血球減少症も疑います。白血球は好中球、リンパ球、単球好酸球好塩基球から構成されており、どの成分が増減しているのかも重要です。

RBC(赤血球数)
血液中の赤血球の数です。肺で取り込んだ酸素を全身に送るのが赤血球の仕事ですからこれが少ないと酸素が行きわたらず、疲れやすい、息切れなどの症状がでてきます。関節リウマチなど炎症性の病気では減少していることがよくありますが、リウマチの勢いを押さえることができると改善します。しかし赤血球数が少ないと貧血とは限りません。

CRP(C反応性タンパク)
この項目の上昇は炎症を意味します。
関節リウマチの患者さんの約8割で上昇しています。この値が高いと関節リウマチの勢いが強く、治療が効いてくるとこの値も下がってきます。この点でCRPは診断と治療の良い目安になります。
いっぽう、この値が陰性だからといって関節リウマチでないということはできません。関節リウマチの患者さんの1~2割で陰性です。この場合、血沈値とかSDAIなどほかの検査値を参考にして治療を進めていきます。

血沈
血液沈降速度検査の略です。古典的な炎症反応検査で、以前勤務していた病院でも私以外にこの検査をオーダする医師はいなくなり検査課から止めてほしいといわれたものですがやはり必要な検査です。病気と治療の目安になります。加齢とともに上昇します。かつて広島に講演に来られたご高名な某先生は、”無人島でひとつだけ検査が出来るとしたら何を選ぶか?との質問に”血沈”とお答えになられたくらい役に立つ検査です。質問するほうも質問するほう、赤沈と答えるほうもたいがいですが、専門医の二次会なんてこんなマニアックな話ばかりです。

リウマトイド因子
関節リウマチの人によく出現する抗体で、リウマチ因子とよばれることもしばしばです。その名前から、リウマチ因子が出たからリウマチ、あるいはリウマチ因子が出ないからリウマチでない、と判断されることもあるようです。
リウマトイド因子はリウマチの患者さんの約8割に陽性で、残りの2割に患者さんでは陰性です。つまりリウマトイド因子陰性の患者さんも珍しくないのです。一方、健常人でも5%近くは出現し、高齢者ではそれより多いとされています。肝炎の患者さんにもよく出ますから、この検査だけで関節リウマチであるかどうかはわかりません。抗CCP抗体検査が普及したこんにちでも検査は必須です。

抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)
これまでのリウマトイド因子より高い確率で検出されます。これが陽性であれば約95%の確率で関節リウマチであるといえます。しかし早期の患者さんでは検出されないことも多く、抗CCP抗体陰性でも関節リウマチでないとは言えないのです。この検査値が高いほどリウマチの予後が厳しいことが知られており、ぜひ定量検査を行うべきです。
厚生労働省の規定では陽性なら一生で一度だけ、陰性なら数カ月おきに検査することが認められています(患者さんはご存じないのでが、検査できるかどうかは厚労省の決まりによるところが大なのです)。抗CCP抗体はシェーグレン症候群や結核の患者さんでもときどき検出されるので要注意です。

AST/ALT
以前はGOT/GPTとされていた肝機能の検査です。関節リウマチの治療中に多少上昇することは珍しくありません。メトトレキサートによる肝障害の予防にはフォリアミンがとても有効です。ちょっと心配な場合には肝臓専門医を紹介させていただきます。肝臓はかんじんというくらい大事な臓器です。飲酒や肝炎で肝臓障害があると関節リウマチの治療にも大きな影響があります。

血清クレアチニン
腎臓の機能の目安になります。これが高いと腎機能が低下していると考えられます。この値には筋肉が関係しており、筋肉の量が少ない関節リウマチの患者さんでは低めに出る傾向があります。つまり正常値でも安心できないのです。尿蛋白も重要な判断材料で尿検査も欠かせません。とりわけリマチルという薬では必須です。腎機能が低下している患者さんには薬の量を減らす必要があります。

尿酸
血清尿酸値は腎機能低下、脱水状態、過食等で増加します。正常値は7㎎/dl以下です。尿酸が原因で起こる病気で有名なのは痛風です。痛風発作歴のある患者さんは尿酸値に注意する必要がありますが、痛風発作歴がなければ血清尿酸値が7㎎/dlより高くても必ずしも治療の必要はありません。しかし痛風発作歴があれば6㎎/dl以下が必要です。

MMP-3(マトリックスメタロプロテアーゼスリー)
長い名前ですが、軟骨のマトリックスが破壊されていく目印です。つまりこれが高いと関節が徐々にいたんでくる可能性が高いわけで、半年後の関節の破壊を示す指標です。正常値は男性120女性60と男性が高めです。関節リウマチの治療が順調なら低下が期待できます。高齢者、ステロイド内服中の患者さんでは高めに出ますので勘案しなければなりません。

検尿
尿にタンパクが出るのは異常であり、腎機能の低下を示しています。抗リウマチ薬ではリマチルなどで時にタンパク尿が出現することがあり、放置していると悪化してネフローゼになることもあります。腎機能が低下しているとメトトレキサートなどさまざまな薬剤の副作用が起こりやすくなってしまうので、検尿は簡単ですが大切な検査です。受診ごとの検査を強くお勧めします。

KL-6
間質性肺炎の状態を評価するものです。リウマチ性の肺炎、あるいはメトトレキサートによる肺炎の状態を評価するために不可欠の検査です。リウマチ性肺疾患の既往のある患者さんには必要です。病変が生じた後から数値が上がってくるのが玉に瑕。

Tスポット
現在でも結核は時に見られる疾患であり(日本は世界的にみるとまだ患者さんが多くて結核については先進国ではないそうです)、年配の方の世代にはたいへん多い疾患でした。肺浸潤、肋膜炎、これらはおおむね結核だったのです。
特に免疫を調節する治療を行うときには十分に気をつけることが必要です。かつてのツベルクリン検査(院長もしました)から感度も特異度も高いインターフェロンγ遊離試験に代わっています。陽性は現在あるいは過去の結核感染を示すものですが、現在の感染なのか過去の感染なのは区別できません。呼吸器疾患は専門外の当クリニックではしばしば呼吸器専門医に紹介させていただくのですが、幸いにも当クリニックではいまだ結核発症例はありません。

アルブミン
血中総蛋白のうちの一部です。肺炎であれ肝障害であれ、アルブミンの下がる病態はよくありません。炎症が起こっていると低下します。何が起こっているのか解明する必要があります。総蛋白量とアルブミンの差が広がっているときは多発性骨髄腫の可能性を考えなければなりません。

抗核抗体
細胞内に存在する細胞核成分に対する自己抗体の総称です。全身性エリテマトーデスをはじめとする膠原病で陽性になり、関節リウマチとの鑑別を進めていくうえで重要です。やっかいなのは健常人や関節リウマチの患者さんでも陽性を示すことがかなりあるので、抗核抗体+というだけでは診断に至らないことです。いくつかの種類があり、膠原病の病名を診断する手掛かりになります。

血中カルシウム
血液のカルシウム濃度です。カルシウムといえば骨、骨粗鬆症ですが、カルシウムは細胞膜の安定性にすごく関与しており、血中カルシウムが高くても低くでも吐いたり倒れたりして時に致命的ですらあります。カルシウム内服中であればときどき検査すべきです。血中カルシウムはアルブミンの量に左右されますので、アルブミン値が4.0g/㎗以下であれば補正する必要があります。

胸部CT検査
ふつうの単純X線で間質性肺炎やニューモシスティス肺炎などを診断するのは困難なことも多いされています。病状が疑わしいときには胸部CT検査をお勧めします。呼吸器科専門医あるいは放射線科専門医にきっちり診てもらうことが必要です。当クリニックでは他科専門医との協力の上で診療しています。体調が悪い時には早く検査を行うのがよく、段原地区には高性能のCTを備えている医療機関が複数あり本当に恵まれています。おおむね当日か翌日には検査できます。


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